チラシを300枚配って、その先が分からない
株式会社亀屋は、明治乳製品の宅配を中心に、食品の販売と卸をしている岩手の会社です。花巻・盛岡・釜石の3拠点で、地域のお客様に商品を届けています。
既存のお客様からの注文は、長いあいだチラシと電話とFAXで受けてきました。チラシを配る。「これをお願いします」と電話をいただく。FAXで注文書が届く。それを見て配達する。
この方法が悪いわけではありません。電話だから安心して注文できるお客様がいますし、FAXが一番早い事業者もあります。
ただ、受ける側には確実に負担があります。
- 電話に出られる時間が限られる
- 注文内容を書き取る必要がある
- 聞き間違いが起こる
- 営業時間外は注文を受けにくい
- FAXの内容をシステムに転記する
そして、もう一つ気になっていたことがありました。
チラシを300枚配ったとして、その300枚が何を生んだのかが分からない。売上が少し伸びれば「効果があったのだろう」と思う。減れば「今回は響かなかったか」と思う。それだけで終わっていました。
そこで考えたのが、「今までの商売を壊さずに、注文の部分だけをデジタルにできないか」ということでした。
一般的なECサイトでは、たぶんうまくいかない
最初に考えたのは当然ネットショップです。ただ、うちのお客様を思い浮かべると、一般的なECの仕組みが最適だとは思えませんでした。
会員登録をして、メールアドレスとパスワードを決めて、ログインして、商品を探して、カートに入れる。ネットに慣れている人にとっては何でもない操作です。
しかし地域の宅配には高齢のお客様も多く、「パスワードを忘れました」だけで注文そのものを諦めてしまう可能性があります。注文したい気持ちがあるのに、入口で止まる。これが一番もったいない。
それなら、ログインをなくせばいい。
そこで作ったのが、お客様ごとの専用URLを使ったWeb注文システムです。
仕組みは、できるだけ短く
お客様一人ひとりに専用URLを発行します。
最初にアクセスしたときだけ、登録されているメールアドレスに6桁の認証コードを送ります。認証が済むと、そのお客様専用の注文画面が開きます。並んでいるのは、そのお客様に販売できる商品だけです。
数量を選び、内容を確認して、注文する。
注文が完了するとお客様に受付メールが届き、同時に会社側にも通知が入ります。発送を確定したら、発送確認メールとデジタル納品書を送ります。
セッションはサーバー側で管理しているので、一度認証すれば、しばらくは毎回コードを入力する必要がありません。二回目以降はURLを開いたらそのまま注文画面です。
目指したのは、「スマートフォンでQRコードを読んだら、迷わず注文できること」。それだけです。
作っている途中で、目的が変わった
当初の目的は、電話とFAXの手間を減らすことでした。
ところが作っているうちに、もっと大きなことに気づきます。
QRコードを使えば、チラシ → QR → Web注文という流れが作れる。そして、そのQRコードがどのチラシから読み取られたのかを記録すれば、「どの販促物からお客様が生まれたのか」まで分かる。
ここでシステムの位置づけが変わりました。単なる注文フォームではなく、リアルの接点を、継続して買ってくださるお客様に変える仕組みとして考えるようになったのです。
QRコードが読まれた瞬間から数える
たとえば「旨玉」のチラシを300枚配るとします。チラシには専用のQRコードを載せ、その施策にキャンペーンコードを割り当てます。QRコードが読み取られた時点で、アクセス記録を残します。
すると、こういう形で見えるようになります。
配布 300枚
└ QR読み取り 100人
└ 認証完了 60人
└ 顧客登録 40人
└ 注文 30人
※ 数字はあくまで例です。実際の結果はこれから測ります。
これまでは「300枚配ったけれど、どうだったのだろう」で終わっていたものが、どこで止まっているのかまで見える。認証で落ちているならメールの文面を直す。読み取りが少ないならQRの位置とキャッチコピーを変える。直す場所が分かるということが、何より大きいと思っています。
本当に知りたいのは、最初の注文ではない
さらに重要なのは、その30人がそのあとどうなったかです。
旨玉のチラシから30人のお客様を獲得したとします。初回注文だけを見れば、売上は数万円かもしれません。
けれど、そのお客様が半年後にも注文していて、旨玉だけでなく牛乳やR-1、LG21まで買ってくださっていたらどうでしょう。
その場合、旨玉は「売れた商品」ではありません。新しいお客様と出会うための商品だったことになります。
だからLTV — 一人のお客様が一定期間にどれだけ購入してくださったか — で見たい。
「このチラシから10万円売れた」ではなく、「このチラシから来たお客様が、半年で80万円買ってくださった」。そこまで見えて初めて、次にどの商品でチラシを作るべきかが決められます。
自動販売機を、24時間動く入口にする
そしていま、もう一つ試してみたいことがあります。
弊社では明治ドリンクの自動販売機を複数設置しています。そのうちの一つが温泉街にあります。温泉に入った方が、湯上がりに明治の商品を買っていく。
普通なら、その場の売上で関係は終わりです。
でも、自販機にQRカードを置いたらどうでしょうか。
温泉 → 自販機で購入 → QRを読む → 商品を見る → 後日、自宅へ注文 → 再注文
自動販売機が、飲料を売る機械ではなく、24時間動いている顧客獲得の入口になる。これはかなり面白いと感じています。
自販機ごとにキャンペーンコードを分ければ、どの自販機から何人が来て、どの自販機のお客様の購入額が大きいかまで比較できます。QRカードのデザインや載せる商品を変えれば、「どの商品を入口にすると再注文につながりやすいか」という実験もできます。
自販機の売上金額だけでは見えなかったものが、データとして見えてくるかもしれません。
紙をなくすことが目的ではない
この仕組みで、紙のチラシや電話をなくそうとは考えていません。むしろ逆です。
地域の商売では、チラシ、自販機、商品パッケージ、店舗、人からの紹介といったリアルな接点に大きな価値があります。問題は、その接点が一度きりで終わってしまうことです。
リアルで出会う。QRでつながる。Webで注文してもらう。データとして関係を残す。そしてもう一度買っていただく。
紙とデジタルのどちらかを選ぶのではなく、両方をつなぐという考え方です。
小さいから、実験ができる
大きなECサイトを作るのが目的ではありません。
まず自分たちのお客様に使っていただく。小さくチラシを配ってみる。自販機にQRカードを貼ってみる。そして数字を見る。
うまくいかなければ、カードの文章を変える。認証で離脱しているなら、案内を作り直す。注文は入るけれど再注文がないなら、そこを考える。
完成形を先に予想して大量に投資するのではなく、実際のお客様の動きを見ながら直していく。規模が小さいからこそできるやり方だと思っています。
Webシステムは完成した。ここからが本番
作りながら、一番変わったのは自分の目的意識でした。
最初は「電話とFAXの代わりになるWeb注文フォーム」を作っていました。いま考えているのは、チラシや自販機や商品といったリアルな接点からお客様とつながり、その後の注文と再注文まで追いかける仕組みです。
リアル接点 → QR → 顧客化 → 注文 → データ蓄積 → 再注文 → LTV向上
まずは亀屋自身で使います。何枚配って、何人がアクセスして、何人が買って、そのお客様が半年後にいくら買ってくださったのか。自社で数字を出してみます。
システムはできました。でも、商売としてはここからがスタートです。
どんな数字が出るのか、楽しみにしながら小さく始めてみます。